「ねぇ、お兄さん。私を買わない？」 いつも足繁く通う“お酒コーナー”に佇んでいた彼女はゆった。いや、実際にはゆってはない。彼女は人形だから喋るはずもない。聴こえたんだ。そう、それはまるで天啓のように。 「いくらだい？」 僕はゆった。いや、実際にはゆってはない。当たり前だ。“お酒コーナー”でクリスマスに割引されたセセリと刻みネギしか買ってないアラフォーになるおじさんがプレモルのおまけで付いていた人形とお喋りしてたら正直僕でも近付きたくない。シラフならそれぐらいの尊厳は弁えている。

@めめ ： 「税別1148円よ」 占めたものだ。正直、最初から彼女を買うつもりでいた。正しくは彼女に付いているプレミアムモルツをだ。最初からそのつもりで-100円クーポンを握り締めていたけれど、僕は欲が出てしまった。彼女に少しでも良く思われたかったんだ。 「分かった。キミを買うよ。それが君の為になるのなら」 「ありがとう、おじさん」 彼女は別にそんな事はゆってない。

@めめ ： 「ｱﾝｯ...♡♡♡おじさん。手、無理矢理掴まないでッ... ♡♡♡」 僕は写真撮影に躍起になっていた。 「(チクショウ‼️‼️コイツ、全然缶のフチに座らねェ、、⁉️⁉️)」 彼女はコップの縁子さんシリーズのくせに全然縁に座ろうとしなかった。本当に死ぬほどバランス能力が壊滅的で何度座らせようとしても後ろに転んでいた。 「ｱﾝｯ...♡♡♡ﾔﾝｯ...♡♡♡おじさん、折れちゃうッ...♡♡♡」 「(知らん‼️‼️‼️‼️知った事か‼️‼️‼️‼️どうせお前はこの投稿をする為だけに買ったヲンナ‼️‼️‼️‼️寧ろ、折れたら折れたでネタにする‼️‼️‼️‼️😡)」

@めめ ： 「ｱｯ...♡♡♡ﾔｯ...♡♡♡おじさん、、もう、、。♡♡♡」 彼女の腕は限界だった。いっそ本当にブチ折ってやろうかと思うほどにはリテイクを挟んだ。 「ゴメンッ‼️‼️‼️‼️もう‼️‼️‼️‼️‼️」 僕はもう限界だった。時間にして30分程だろうか。ここまでの文章を書くまでにプレモル3缶を空けて、僕はずっとベランダで煙草を吸い続けながら執筆している。クリスマス・イブにまでどうしてこんな誰もいいねをつけない駄文を書いているのかと虚無ってもいる。身体も冷え切り、今すぐにでも暖かい風呂に入りたい。ツマミに買ってきたセセリも早くネギポン酢で頂きたい。

@めめ ： ﾄﾞｯﾌﾟｩｩｯｯｯｯｯ♡♡♡♡♡♡ 物語には何にでもオチが必要だ。これは物語だけでは無い。人生における全ての事について須く結末が存在する。善に惡しに。望むべくとも人の自由意思による取捨選択の上で全ての話はオチへ行き着く。止める事は出来ず、全ては移ろい、いずれは過去として堆積する。 「ありがとう、おじさん...」 なんて事はない。これもまたどこにでもありふれた非凡なお話。

ちね[笑う]