正直、外で働く余裕はないけど｜ソーマの投稿-GRAVITY(グラビティ) SNS

エーデルワイス

ドアを閉める音が
少しだけ静かで
気を遣ったのが
お互いわかってしまう

靴を揃える指先
ほんの一瞬触れて
何事もなかった顔で
距離を戻す

香水じゃない
生活の匂いがして
それが妙に
落ち着いてしまう夜

急がないことが
優しさだと知って
欲しい言葉ほど
飲み込めるようになった

恋をしている
なんて言葉は
もう
似合わないけど

君の癖も
黙るタイミングも
全部
覚えてしまった

触れないままで
壊さずに
大事にする想いを
愛と呼ぶなら
それは
君だった

スマホを伏せる仕草
理由は聞かない
聞かれないことに
少し救われる

コーヒーが冷めるまで
同じ話をして
結論のない時間に
安心してる

若かった頃みたいに
未来を並べない
今日が無事なら
それでいい

手に入れたいより
手放したくない
失う痛みを
知りすぎたせいで

抱きしめるより
隣に座る距離
それが
ちょうどよくて

声の高さも
ため息の数も
全部
現実で

高い場所で
静かに咲く
白い花みたいに
目立たなくても
確かに
ここにある

もしも
一線を越えたら
何かが
壊れる気がして

守っているのか
逃げているのか
もう
区別はつかない

帰り際
コートを羽織る君の
背中を見て
胸が
少し痛む

それが
答えだった

改札の前で
時計を見るふり
引き止めない
それも約束

手を振る角度が
昨日と同じで
変わらないことに
少し笑う

夜道を歩きながら
メッセージを打って
送らずに消す
それにも慣れた

全部欲しいなんて
言わないから
ただ
失くさないでいたい

愛してる
と言わなくても
伝わってしまう
この距離で

触れない手が
何度も
心を
撫でていく

エーデルワイスみたいに
高くて白くて
誰にも踏み込ませない
場所で
咲いている

言葉にしない恋が
ここにあるなら
それで
もう
十分だった

玄関の灯り
消したあとも
まだ
胸の奥で

静かに
咲いている