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TETE
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紫苑/しおん🐈⬛
◆第3章『重なる気づき』
彼女と僕は、
そのまま猫を間に置いて話し始めた。
どちらからともなく、
仕事のことや子どもの話になった。
『私、子どもたちに伝えるんです』
彼女は春の空を見ながら言った。
『自分の気持ちを捨てないで、時々でいいから、そっと許してあげてほしいって。……昔の私は、それが全然できなくて』
猫がその言葉に合わせるように
彼女の足元に身体を寄せた。
『忘れてたんです。自分の中に小さな私がいること。でも、この子に出会って、やっと会いに行けた気がして』
僕は、その言葉を聞きながら
自分の中にあった長い時間を思い返していた。
「僕は、ずっと忘れないようにしていたんです」
言葉が自然に口からこぼれた。
「でもある時、紫苑を供えながら、兄が植えた忘れ草を見ていて……忘れるって、きっと置いていくことじゃなくて、自分に優しくすることなのかもしれないって、思えるようになりました」
彼女はうなずき、
その視線は紫苑の芽に向けられた。
芽は、さっきよりも日差しを吸って、
まるで呼ばれたように細く揺れた。
「忘れなかったから苦しかった日もあったし、忘れられなかったから救われた日もありました」
『分かります。私は、忘れてしまっていたから苦しかったけど、思い出せたから前に進めました』
二人の言葉が
まるでひそひそ話のように重なった。
僕らの背景は違う。
彼女は子どもを支える仕事をしていて、
僕は学校で子どもたちに向き合っている。
それでも、
『気持ちを抱えること』と
「気持ちを手放すこと」のあいだで
揺れてきた時間は、
どこか似ている気がした。
猫はその横で、
眠るように目を細めていた。
紫苑の芽は、春の風にゆっくり揺れながら
小さく、でも確かに伸びていた。
#花彩命の庭 #紫苑


りゅうじ〜🦁


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