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投げキッスザウルス

投げキッスザウルス

今日ご紹介するのは、短編小説『沈黙の一票』です。

舞台はある離島。選挙のたびに、島にはひとつの言い伝えが囁かれます。
――投票用紙に「けつ毛」と書いた者は死ぬ。

馬鹿げた話に聞こえるかもしれません。けれど物語は、その一件をただの笑い話として扱いません。
古老が子どもたちに語る調子で、若者がふざけて投票用紙を汚した夜、どうして命を落としたのかが淡々と語られていきます。

この島では、投票は神聖な行いです。島の未来を託す“言葉”を、ただの戯れで濁してはいけない。
そして紙には不思議な条件がつきまといます。破れず滲まぬユポ紙であれば、罪は記録として残り続ける。
けれど普通の紙に書けば、やがて消えてしまう。――だからこそ「消えるはずの罪を神は許さぬ」と、人は命をもって贖わされる。

これが本当に起きたことなのか、それとも島人の作り話なのか。読んでいると、境目がだんだん曖昧になってきます。
「そんな馬鹿な」と笑いながらも、どこか腑に落ちてしまう。その不気味な説得力が、この短編の魅力です。

しかも読み終えたあと、不意に気づくんです。
――これは昔話ではなく、今を生きる自分たちへの戒めなのかもしれない、と。
言葉を軽んじれば信頼を失う。記録に残る時代に軽はずみな一票を書けば、未来を壊すことになる。

『沈黙の一票』は、ほんの数ページの小品ですが、読んだ人に「言葉と記録の重さ」を突きつけてきます。
笑えるはずなのに、妙に怖い。作り話に思えるのに、なぜか忘れられない。
そんな不思議な読後感を味わえる一冊です。
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