鰹のたたきは塩とオリーブオイルで食べる派です

私が離婚届にサインをした日、帰ってきた高校生の娘は、“そんなことはどうでもいい”くらいの勢いで（実際にそう言っていた）、私に聞いて欲しいことがあるのだと興奮冷めやらぬ様子である事を話し始めました。

それは、小学校から一緒の比較的仲の良いクラスメイトがある男子生徒と“お付き合い”をしていて最近“別れた”ことを知ったというもので、彼女にとっては大きな衝撃だったのだと。

なんでも、彼女の言葉そのままにその衝撃を表すと「私が知らない間に、私の近くで、私と同じ高校生同士の一つの恋が始まって、色々なことがあって、その一つの恋が終わってたんだよ！？」と。

こんな時は決まって私の悪い癖が出てしまいます。瞳を輝かせて話す彼女の様子が可愛い生き物のようで、そんなところにばかり目が行ってしまって、つい話半分になる。そしてちょっとからかいたくなる。

彼女は、独り言のように勢い良く話しを続けています。「ねえ、付き合うってどう始まるん？」とかなんとか。
「お互い三つ指でもついて、どうぞ末永く～って挨拶でもするんじゃないの？」などと相槌を返すうちに、彼女はひとしきり言いたい事を話し終えたようで、声のトーンが変わりました。

「なんか置いていかれた気分だよ…私には誰かと恋愛をするという感覚が全くわからない。どういうこと？」と真剣な様子で訊くので、
私は少し気を取り直し、その二人は化学部だと言うから「二人に化学反応でも起こったんでしょうよ」と真面目に答えたつもりでした。けれど「なにそれ！？キモいー」と顰蹙を買っただけだったのでした。

恋愛する者同士の事を“化学反応”と例える表現は、私が好きな作家の小説に出てきたもので、言い得て妙だと膝を打ちたくなるくらい、いい言葉だとずっと思ってきたのだけど…生々しい響きなのかなあ…
そんな事を考えていると、今度は「じゃあ、恋愛ってどう終わるの？」と。私はめげずに「加水分解でもするんでしょうよ」と返すと、彼女も堪えきれなくなったのか笑っていました。

“恋に落ちる”とか“雷に打たれる”というけれど、私は本当はあまり好きじゃない。一人だけ穴に落っこちる心細さといったらないし、自分だけ雷に打たれる恐怖心も計り知れない。
やっぱり“化学反応”じゃないかな…

自分で確かめてね、思慮深さを身に付けようとしている貴女は良い化学反応を起こすと思うよ、そのうちきっと。