プロット立てられないマンなんだけど、これなんか面白そうだなあ

【小説家さんと映画デートをする】８
#まる婚活

「映画、良かったですね」

真剣に膝を突き合わせて話をするつもりだった彼は、何か諦めた様子で私の話に合わせてくれた。

「でも俺は製作の舞台裏とか見ちゃいますね。
冷めてるって言われるとアレだけど…
物語の舞台がどこなのかとか、そんなのばかりが気になりますねぇ。
エンドロールには【映像提供　熊本】みたいな文字がありました。
…ということは、熊本が舞台のお話なんですね」

彼は自慢げに「俺って観察力があるから」と続ける。またドヤってる。

『うーん』
段々と映画の余韻から帰ってきた私が遮る。

『確かにエンドロールには熊本って書かれてましたね。でもロケ地は滋賀県ですよ』
「えっ？」
『映画に映ってる車のナンバーが滋賀でした』

「…そんな所まで見てたんですか？」

あ。

何かを壊したような無言の間。
今、男のメンツを潰した気がする。
本当に何も考えていなかった。

大失敗３回目だと思った。

（製作スタッフさんと熊本・滋賀の人には悪いけど…）舞台が何県でも、この場は『すごーい！観察力があるのね！！』って誉めれば良かった。
こういう場面で男に花を持たせなくてどうするんだ…！

無言でコーヒーを飲み始める男。
ほら、拗ねちゃったじゃないの！
心の中で頭を抱える私。

『あの…　えーっと、映画前の予告も面白そうな作品がいっぱいでしたね！』
無言でコーヒーを飲み続ける男。
『ほら！湊かなえの…！！』

あぁ！
こういう時に限って作品名が出てこない！
なんとか思い出そうとして出た言葉が…

『湊かなえの…　「告白」？』

「ｯﾝｺﾞｯﾌｫ!!!」

コーヒーを飲む男から変な音がする。
どうやら飲みながらむせたようだ。

『あ、「母性」でしたっけ』

それにしても「告白」って言葉だけでむせるとか、うぶ過ぎないかこの人。
湊かなえの「告白」はそういう意味の告白じゃないんだが。

むせた男は腕時計を見る。

「あ！！時間だ！！」
『え？』

「帰らないと！！！」

するとすごい勢いで立ち上がる男。
『え？』

男は瞬時に伝票をリレーバトンのごとく掴み、レジまで全速力で走った。必死の表情。
スピードがガチすぎてあっけにとられる私。

『…え？』
なんか私逃げられたみたいに見えるじゃん！
どんだけ早く帰りたいんだよーーっ！？