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田中テスタロッサ
それは喜ばしいものではなく、単に「喋らなくていい時間」が訪れただけだった。
コンビニの袋を机に置き、冷えたサラダチキンを取り出す。
指先に伝わるその感触が、妙に現実的で、少しうんざりする。
一口、噛む。
スモークの香りが鼻を抜けるが、それが嬉しいわけでも、感動的なわけでもない。
ただ、「まだ舌が味を感じるらしい」と思い、それがほんの少しだけ救いだった。
思えば、ここには何もない。
拍手も称賛もない仕事、終わらせても誰も気づかない資料、
声をかけても「おつかれさま」で終わる関係。
アニメの主人公たちは、学校で笑い合い、青春を叫び、
傷ついても誰かが泣いてくれる。
けれど私はただ、誰にも見られず、
冷えた鶏肉を口に運んでいる。
本当は唐揚げが食べたい。
でも、胃もたれが怖くて、それすら選べない。
大人になるとは、そういうことかと知ったのは、
このサラダチキンを“うまい”と思ってしまった日のことだった。
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