松村北斗は片手で京本大我をステージ下から引っ張り上げられる……

『第12話』

その夜。
明人がバイトから帰宅すると、夏希は晩ごはんを作って待っていた。

手作りの餃子と天津飯だった。
どれも、とても美味しい。
食べながら、夏希は服のポケットから小さな紙を出した。
「これ！　今日、ショッピングモールから帰ったら、ブラウスのポケットに入ってたの！」

明人は紙を見た。

『貴方の心に金ピカシャワー！
　　　　ゴールデン☆金子
　携帯番号090-〇〇〇〇-〇〇〇〇』

明人は驚いて言った。
「これって、あの人の名刺……！？」
夏希は困ったように笑った。
「信じられる？　あの人、いつの間にか入れてたのよ！？」
明人はあの時の事を思い出した。
ゴールデン金子は、夏希の肩に触れたようには見えたが……。
明人は思わず吹き出した。
「あの人、マジシャンか何かなのかな！？」
夏希も笑った。
「あの時は驚いて逃げ出しちゃったけど……。ほんとにおかしな人だったね！！」

夜も更け、夏希はベッドで、明人はソファーに横になった。
暗い部屋の窓の外からはキリキリキリと、虫の鳴き声がした。

「……ねえ。こっちで一緒に寝てもいいんだよ……？」
夏希の声がしたが、明人は瞳をぎゅっと閉じて、寝ているふりをした。

明人には、重大な悩みが2つあった。
1つは、晴子のことだ。
晴子は来週には出張を終えて、ここへ帰ってくる。
その時夏希はどうすればいいのか……。

もう1つは、バイト先の先輩のことだ。
先輩の大切なものを盗んでしまったことを、まだ謝っていない。
あれからシフトが被らず、会えてさえいないのだ……。

この2つのことを考えると、明人はドキドキして、うまく眠ることができないのだった……。

ーーーーーー

冬陰の黒縁メガネは、5台のモニターのブルーライトを反射していた。
自分で撮影した動画を一時停止したあと、画像をギリギリまで拡大する。

ピアノの前で転んだ女。サンダルが脱げた、その足の裏。
冬陰は、隣のモニターに写ったネットの画像と比較した。
……どちらも粗い画像だが、足の裏にバーコード。

冬陰の口の右側がニヤリと持ち上がった。
（……見つけたぞ。都市伝説だと思っていたが、ウォーキングドールは本当に存在したんだ……！！)

動画を再び再生する。
整った顔立ちの男が転んだ女に駆け寄り、手を握って立ち上がらせた。

(正体を世間に知らしめてやる……！)