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ひなた

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「塵と熱」

二階の窓から田舎の田んぼを覗くといつだって幼い頃のあの時間を思い出させてくれる。
5月初旬、私の住む田舎町にも初夏がやってきた。コンクリートに熱を打ち付けるような太陽の暑さと、蝉の鳴き声がまるで梅雨の時期によく聞く雨音のように私の耳に入り込んでくる。
「おーい、ねーちゃーん、おかぁがご飯出来たってー、早く下に来いよー。」
弟のせいたが1階から大きな声で私を呼ぶ。
「私、ご飯いらないから先食べててー。後で自分のタイミングで食べるからー。」
私がそう答えるとせいたが
「おかぁに怒られても知らねぇからなー。俺はねーちゃんに教えたからな!」
そう突き放すように言葉を言い放った。
私はため息をつきながらベッドに飛び込んだ。辛い時はそうしろと私の中の誰かが教えてくれた。年頃の乙女というのは繊細なのだから見逃してくれと心の底では嘆いていた。この乾いた心にはいつの間にか埃だけが積もっていた。熱は感じていない。私にはあの時から時間だけが過ぎていて、まるで歳を取らない不老の血を飲んだとでも言うような感覚に陥っていた。

誰か私のこの心に一雫の雨をください。

無理を押し付けるような問いかけには誰も応じてくれない。家族、友達、職場の上司や先輩、誰も聞く耳を持ってくれないのだ。書斎の奥に眠っている古い書物のような私には誰も興味を持ってくれない。綺麗な風景や素敵な音楽、心躍るような気分がまるで感じられない。一体いつからこんなにも苦しくて、息もできない様な、そんな弱い人になったのだろう。自分で自分を理解する事も、理解される事も無く死ぬのかと、そう思っていた。いや、そうなってしまった。私には結局の所、誰もみてくれなかったのだ。

今私の見ている景色はモノクロで、風の音も、蝉の声も、せいたのあのうるさい声だって聴こえない。それもそう

私にはもう時間が来てしまったから。

最後にやり残したことと言えば、この心に熱を伝える事だった。できなかったけどそれが不幸だと思ってもいない。

後悔はもうないのだ。

「塵と熱」

終わり………
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