コミック収集家の苦悩 - スペース限界突破編

【小説家さんとゾウさんを見に行く８】#まる婚活

「ゾウはですね〜　アジアゾウとアフリカゾウとマルミミゾウがいまして〜」
『…』

ゾウについて熱弁する彼。
面白いほど、右の耳に入った情報が左の耳から抜けていく。

ほえぇえぇ〜〜〜〜？？

「〜〜〜が、〜〜〜で、〜〜〜になっていて〜〜〜」

申し訳ないけど、彼の言葉が書けない。
本当に私の頭の中に残っていないのだ。

「〜〜なんです！」
『はぁん…』

ドヤァ…という文字が書いてありそうなほど清々しいドヤ顔だったが、私の頭の中は半分溶けていた。
【はい】と【うん】が混ざり合って、【はぁん】という変な返事が出た。

嬉しそうな彼。
嬉しそうなら良かったよ。

そうしてズルズルと園内を見て回る。

私は終始『大きいな～』とか『すごい色〜』とか『これがその辺に野生でいたらビックリですよね』を繰り返すだけだった。
ゾウを見終わって、彼は緊張がほぐれたようだった。

そんなとき、彼が一言呟いた。

「俺も飯食って、寝るだけの生活がしたいなぁ」

久々の会社勤めで疲れているのだろうか。
『お疲れ様です』と私は言った。
彼はその言葉を機にポツポツと何かを言い始めた。

「いいなぁ」
「俺もこいつみたいに飛べたらなぁ」
「何もしてないのに生きてるだけでご飯が来るとか最高じゃん」
「俺も昼間から寝てえよ」

その言い方が不平不満を帯びていて、動物達に対する【嫌味】にも聞こえてくる。

動物達は悪くないよ！と言ってしまいたかったが、私はただただ聞き流した。

「いいよなぁ〜　動物は楽に生きれて」

…もしかしてこの人、限界ギリギリじゃない？

でも私は『お疲れ様です』以上の言葉が見つからなかった。
だからひたすら『お疲れ様です』を繰り返すだけだった。
自分の不器用さを思い知らされる。

『お疲れ様です！』
「・・・」
『本っ当にお疲れ様でした！』
「・・・」

彼がさらに不機嫌になっていったような気がする。
まさか『早くデートを終わらせて帰って寝てね』とも言えないし、『デート辞める？』とも『動物は関係ないでしょ』とも言えないし。

…彼はどう返してほしかったのだろう？
こういう時こそ、おばちゃんのアドバイスが欲しかった。

持ってる漫画の冊数 376

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