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あき
留置場は書庫があって、朝食後そこから本を借りて房の中で読めます。
房の中は何にもなく壁も天井も同じ色で視界は一色で色彩を感じません。音も無く、場所によっては時計すら視界にありません。そんな環境って、本読むには最高です。文字が脳にダイレクトに入ってくる感じです。
本を選ぶ時は、他の房の人たちもいまして早いもの勝ちです。新たに入った本は皆が選びたがります。
その時『マリアビートル』という本を手に取っていると
「それ面白いよ」
と声かけられました。組関係の方です。よく私に話しかけてきました。私はそのままその本を選びました。房の中で『マリアビートル』を開いてみると、どうやらこれは2巻目で、この前に『グラスホッパー』という作品があるようです。なので、読みませんでした。
翌朝、書庫で『グラスホッパー』を探していると、その彼が
「どうだった?」
「この前にグラスホッパーってあるのですね。それから読みます」
しかし、残念ながら書庫には『グラスホッパー』はありません。
「じゃ、俺が買ってやるよ」
翌日、警官が彼に話しかけてました。
「じゃ、この本、書庫に寄贈でいいんですね」
「そのグラスホッパー、10番に渡してくれませんか」
10番は私のこと。彼はすべての房に聞こえるくらいの大声で言いました。わざとです。
「そんなことできるわけないだろう」
翌朝、書庫に新しい本が追加されましたが、誰も手をつけていません。彼が大声で言ったので。
これは贈賄にはあたらないけど、借りを作るのがイヤでしたので迷いましたがその本を手に取りました。
彼は私が留置場に入った時から話しかけてきました。政治家に近づきたいんだなとずっと警戒していたのですが、彼はちょっとそれまで見たヤクザとは全く違いました。見た目はもうそれっぽいのですが、目が違うのです。瞳に潤みがありました。そして、沢山の本を読んできたであろう知性を感じました。
「あきさん(名前は教えた)、年下だけど、俺はあんたと話が合う気がする」
「あきさんが、俺らの世界と関わりたくないのはわかる。だから、お互いの仕事、バックグラウンド無しで、1人の男と男として飲もうや」
私をグラつかさる言葉を発する人で、携帯番号を書いたメモを渡され、
「俺はどうせ起訴されない。だから出たら1度連絡してくれ」

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その組の人色んな便利そーな人に話かけてそう、、
みみ子🍧
粋な計らいですね[ハート] 伊坂幸太郎さんの本はどれも面白いですよね[照れる] 【AX】は読みましたか? もし読んでいなければ面白いのでぜひ! 通りすがりなのに押し付けがましくてすみません。
なお
おもろいなぁ