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天月 兎
第三十六話 前編
閑静な城壁の外。
いつもなら篝火が灯されている筈のそこに光はない。
人々の営みの音も気配もない。
それが意味するのは、滅びだった。
守ると、誓ったのに。
喪失感で頭がおかしくなりそうだ。
外壁を守っていたのだろう騎士達は、皆地に転がっていた。
体が、頭が城の方を向いている様から鑑みるに、背後から奇襲を受けたのだろう。
自分達が守っていたはずの王都側から。
誰か、誰か一人でも生き残りはいないだろうか。
ウェス・トリステスの外なら、まだ魔族に対抗できる地方があるかもしれない。
生存者が居るのなら、保護してもらえばいい。
城壁に手を当てて、王都全域に索敵の魔術をかけてみる。
誰か、誰か、誰か、誰か。
祈るように生存者を探すが、既に絶命した者達の気配しか…いや、ある。
一人だけ、城の中に一人だけ残っている。
国王だろうか。
この状況下で生き残っているのなら、急いで次元を繋げなくて済む。
魔力は出来るだけ温存したいと思ってのことだった。
一縷の希望を抱いて、城壁内に足を踏み入れた時。
道端に転がっていた死体が、立ち上がった。
ルーヴェリア「…………」
数多の死体達が、縋るようにルーヴェリアの方へ駆け出す。
その中にはクレストの妻と、その子供の姿もあった。
ああ、この光景を見たのが私で良かった。
魔力の温存だとか、考える余裕も無くなった。
ルーヴェリア「今、楽にして差し上げます」
自分が足を踏み入れた西門から、城を挟んで反対側にある東門までの全域を対象に、敵対意思を持つ者全ての位置を把握する。
思い浮かべたのは、あの日の眩い太陽の光。
ルーヴェリア「陰を這う哀しき生命に、安らぎへの導きを」
白い魔力がルーヴェリアの全身から王都内全域に広がる。
それはあまりにも眩し過ぎる光で、けれどとても優しく温かいものだった。
光は苦しみの呻き声をあげる死者達を包み込み、軋む身体を葬り去っていく。
全ての死者が天に召されたことを確認して、玉座の間の扉の前に次元を繋げて転移する。
廊下に残っている死体は操られなかった者達のものだろう。
皆首を斬られて死んでいる。
生者はこの奥に一人だけ。
ゆっくりと、扉を開いた。
ルーヴェリア「…!」
流石に息を呑んだ。
まず目の前に現れたのは裸にされた王妃の骸。の像。
胴体は腰のところで横一文字に真っ二つにされ、上半身側が地に着いている。
胸元と背中に一本ずつ脚がつけられ、上の方に伸ばされている。それは膝から折れ曲がって、同じように上に伸びた腕と共に斬り落とされた王妃の首を支えていた。
手と足で、生首が掲げられている。
その向こうから、国王は光を失った目でその像を見つめていた。
ルーヴェリア「最早帰還報告は必要ありませんね……一体何が起きたのですか」
像を通り過ぎ、国王の前までやってきたルーヴェリアの問いに、彼はぽつりぽつりと、ことの経緯を話し始めた。
騎士団が応戦に出てから暫く後、王都上空に大きなゲートが開いた。
お前に託された短剣で妻が破壊したが、それが過ちであったのだ。
魔術棟の地下から黒い影が伸びて、真っ先に魔導士達が殺された。
上空のゲートは目眩しに過ぎなかった。
妻は魔王に捕えられた。
騒げば殺す、外に連絡をしても殺す。
そう脅された城内の人々は何もできなかった。
そもそも魔導士達が死んでいるので魔力や魔道具を利用して外部に助けを求めることが出来なかった。
魔王は妻を私の前まで連れてきてこう言った。
イレディア「お初にお目にかかる、サフラニア王国の国王よ。我が名は魔王イレディア。余計な話は割愛し本題に入ろう」
国民の命と、お前の妻の命、どちらを選ぶ?
私は選べなかった。
いつも弱くて、頼りない私を支えてくれたのは妻だ。
妻の言葉があったから、私は王として相応しい態度でいられた。
妻は、国民を選べと私に言った。
王妃「民あっての国です。私一人の命と民の命、どちらがより重いかは明白でしょう」
それでも私は選べなかった。
妻が私に追い打ちをかけるのを、魔王はさも愉快そうな顔で見ていたものだ。
王妃「貴方は王なのですよ。外で戦っているアドニスの父であり、この国の父です。どちらかが生きて、民がいれば国は成り立つ。その為ならば私の命は惜しくありません」
どうしてそんなに簡単に、大切な命を捨てられるのか私には理解できなかった。
妻もアドニスの母であり、シーフィの母であり、この国の母なのに。
私はまだ、選べなかった。しかし。
イレディア「早く決めねば両方殺すことになるな」
その一言に、私は折れた。
国王「……民を、助けてくれ」
そう言った瞬間、妻は目の前で首を落とされた。
最後の言葉を遺す時間すら与えられずに。
それだけに留まらず、服を破かれあんな姿にされて。
イレディア「凡愚な王妃と愚鈍な王か、似合いだな」
けたけたと笑う声と共に、城中から悲鳴が聞こえてきた。
使用人や衛兵達が次々と殺されていく音だ。
国王「…!待ってくれ!娘だけは…!」
言わなければ良かった。
言ってしまった後に気がついた。
イレディア「ああそうか、確か居たな。娘が」
悪い笑みを浮かべた魔王がまた問いかける。
国民の命と、娘の命、どちらを選ぶ?
妻だったものの像が視界から離れなくて、娘を見捨てたら同じように殺されるのではないかと思って、私を支えてくれる言葉はもう無くて、懇願する他に選択肢は無かった。
国王「娘を!娘を助けてくれ…!!」
私は、王でいられなかった。
魔王が私の前に水鏡を作り出し、外の様子を見せた。
いつものように暮らしていた民達が、何の罪も犯していない民達が、私の言葉一つで影に切り裂かれて殺されていく様が映っていた。
部屋の中で、家の入り口で、店先で、道端で、男も女も子供も関係なく殺された。
イレディア「良かったな?娘は助かったぞ。息子の方は分からんがな?あぁ……娘ではなく子供は助けてくれと言っていれば、違った結末になっていたやもしれんな……」
喉を鳴らすように笑いながら、魔王は闇の中に消えていった。
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あいこ
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