当時の私は同じクラスの綾子ちゃんにゾッコンでした。今思えば初恋です。｜元気そうで元気じゃない少し元気なげんきの投稿-GRAVITY(グラビティ) SNS

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元気そうで元気じゃない少し元気なげんき

2025/12/10

当時の私は同じクラスの綾子ちゃんにゾッコンでした。今思えば初恋です。
清楚で、可愛くて、ポニーテールと笑顔が印象的な子でした。
しかし奥手だった私は綾子ちゃんに話しかけることができず、いつもクラスの後ろ側の席から最前列に座る彼女をこっそり見ていました。

ところで、小学校の時、音楽の時間になるとみんな吹いていましたよね。
『鍵盤ハーモニカ」。
ご存じですか?
鍵盤ハーモニカを裏返すとネジがついていて、それを外すとカバーケースが取れ、中の鍵盤を取り出すことができるんです。
それに気づいた私は、壮大な計画を実行することにしました。

ある日の放課後、クラスに誰もいなくなったことを確認した私は、綾子ちゃんの鍵盤ハーモニカをドライバーで分解、中の鍵盤を取り出しました。
「これが綾子ちゃんがいつも吹いている鍵盤ハーモニカの中身か……｣
いや見とれている場合ではありません。
こんなことをしている姿を誰かに見られては小学校生活が終わってしまいます。
すぐに『作業』を完了させなければいけません。
私は事前に自分の鍵盤ハーモニカを分解し、『ド』の鍵盤を取り外しポケットに忍ばせていました。
そして、綾子ちゃんの鍵盤ハーモニカを素早く分解し『ド』の鍵盤を取り外した私は、ポケットから自分の『ド』を取り出し、そこに取り付けたのです。
もちろん、取り外した綾子ちゃんの『ド』は私の鍵盤ハーモニカに取り付けました。お互いの『ド』の鍵盤を交換したということです。

翌日、音楽の時間に綾子ちゃんはいつも通り鍵盤ハーモニカを吹いていました。
『ド』の鍵盤だけが私の物と入れ替わっていることに全く気付いていません。
その様子は感動的でした。
あの綾子ちゃんが、私の鍵盤ハーモニカの『ド」をその指で弾いているのです。その姿を見ながら、私も綾子ちゃんの『ド』を激しく弾きました。
曲は『かっこう」だったので『レ・ド・レ・ド」とラストの『ファ・ミ・レ・ド』以外「ド」の出番はありませんでしたが知ったことではありません。
私のテンションは最高潮です。
計画の第一段階に成功した私は、その後も時間をかけてゆっくり綾子ちゃんの鍵盤と自分の鍵盤を交換し続けました。
え？取り替えるのは鍵盤だけか？
愚問です。ホースも取り替えるに決まっています。
私はショートケーキのイチゴを最後まで取っておくタイプなのです。
6年生になる頃には、私の鍵盤ハーモニカと綾子ちゃんの鍵盤ハーモニカはカバー以外完全に入れ替わっていました。
綾子ちゃんは私の鍵盤ハーモニカを自分の物だと思い込んで吹いていました。
鍵盤ハーモニカのパーツが全て他人の物に入れ替わっても、本人がそれを自分の物だと認識しているのであれば、別物とは言えないのではないでしょうか?
一体、我々人間は何を以て物の『同一性』を判断しているのでしょうね。