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臼井優
行為者が自ら故意または過失によって責任能力のない状態(心神喪失・耗弱など)を作り出し、その無能力状態で犯罪行為に及んだ場合に、その行為を処罰する法理です。
本来、刑法では「行為時と責任能力の同時存在」が原則ですが、これを例外的に認めないために、自らを無能力にした原因行為の時点(責任能力があった時点)で、犯罪行為の実行行為が開始されたとみなすことで責任を問う、という考え方です。例えば、暴力を振るうためにわざと泥酔して人を殴った場合などが典型例です。
具体例
飲酒酩酊と殺人:殺意を持って相手を殺すために、わざと大量に飲酒して泥酔状態になり(原因行為)、その状態で相手を殺害した(結果行為)。この場合、泥酔状態での殺害行為も処罰されます。
薬物使用と傷害:暴れる癖がある人が、その癖を利用して薬物を注射して自らを興奮状態にし(原因行為)、その状態で他人を傷つけた(結果行為)。この場合も責任が問われます。
重要なポイント
同時存在の原則の例外:責任能力と実行行為は同時に存在する必要があるという原則に反しますが、不合理な不処罰を避けるために認められます。
実行行為の遡及(そきゅう):責任能力があった「原因行為」の時点に、実行行為(犯罪行為の開始)を遡って(さかのぼって)捉えます。
適用:刑法39条(心神喪失・耗弱による責任の軽減・免除)の適用を否定し、完全な責任を問うことが可能になります。
関連用語
actio libera in causa:ラテン語で「原因において自由な行為」を意味する言葉です。
間接正犯:責任能力のある者が、無能力者を道具として利用して犯罪を実行させる場合に成立しますが、原因において自由な行為は、この間接正犯の考え方を応用・準用する形で説明されることもあります(間接正犯準用説)。
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