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天月 兎

天月 兎

サフラン色の栄光──不滅より終焉を贈るまで
第二十八話 前編

深い深い、どこまでも深い水の中で、自分は生まれた。
他の皆は魚の頭に人間の体、足だけ人魚のそれという姿をしていたのに、私の頭についていたのは、人間と同じ頭だった。
淡く光る提灯の光が無数に揺らいでいる。
異形だ。奇形だ。一族の恥晒しだ。
飛び交う罵声と嘲笑。
母親らしき人物は私の頬を引っ叩く。
「あんたなんかうちにいらない。今すぐ出ていけ」そう言って。
海魔の何にもなれなかった自分は、生まれてすぐ故郷の海を離れて暮らすしかなかった。
明かりも届かない暗闇をどれくらい漂っただろう。
食事もまともに取れず、このまま死ぬのではないかと、彷徨い続けた日々。
突如、打撃音がして激しく頭が痛んだ。
体が思うように動かず、頭を押さえることもできない。
代わりにぎゅっと目を閉じて、なんとか数回瞬きをした。
セラフィナ「………?」
自分は、地下牢のようなところに磔にされていたのだ。
両手首に枷が嵌められて、繋がれた鎖がピンと張ることで身動き一つ取れない状態になっていた。
記憶を手繰り、そこでセラフィナはやっと理解した。
自分は捕縛されたのだと。
ルーヴェリア「やっと、気が付いたか。3日間喚き叫んでいたのが聞こえなくなったから、死んだのかと少し焦ったぞ」
目の前に立つ敵の姿に動揺が隠せない。
セラフィナ「どうして…壊れてないの」
敵はくく、と喉を鳴らして口角を吊り上げた。
ルーヴェリア「あの程度で私の心が壊せると思ったのか?数多の戦場を駆け抜け、家族すら守れなかったばかりか、仲間を見殺しにしてきたような私が?笑わせてくれる。お前がやったのは私の心の破壊じゃない。ただの、死者の冒涜だ」
腹部に思い切り蹴りが入る。
思わず咳き込むも、胃の中身は既に空っぽになっていたようで、吐き出せるものは何もなかった。
ルーヴェリア「さて、少しお話をしようか」
彼女は近くに置いてあったナイフを手にとると、牢の中に吊るされたそれを見る。
セラフィナ「…拷問の間違いではありませんか」
ルーヴェリア「そうとも言う。が、お前は私に聞かれたことに回答するだけでいい。余計な口を挟むな」
セラフィナの尾の先、丁度二つに分かれた片方を切り落とす。
普通はすんなり切れるはずだが、わざと刃こぼれしたナイフを選んで使用しているため、苦痛に我慢できず叫ぶ羽目になる。
ルーヴェリアは切り落とした尾の片方を、牢の外に積まれた小箱の一つに入れた。
ルーヴェリア「まずは帝国の状況と魔王の居場所だ」
セラフィナ「そう簡単に吐くと…?っああああああああ!!」
ルーヴェリア「もう片方も無くなったな。残念、これじゃうまく泳げないなぁ?」
セラフィナ「くっ…」
魔術を使えばこんな枷も外れるはずなのに、先ほどから何故か壊せないでいることを不思議に思った。
それを察してか、ルーヴェリアはその枷を顎で指した。
ルーヴェリア「ああ、その枷は魔道具でな。作るのに少し苦労したが、魔力封じの術式を込めてある。魔族にも通用するよう、私の魔力で構成してあるから簡単には壊れん」
彼女は満面の笑みでそう言うが、その笑みはすぐに消え去り、「で?」と一言セラフィナに問う。
セラフィナ「…………」
ルーヴェリア「なるほど、あくまでも口を割らないつもりか……そうだ。確か私に会った時、人の殺し方は命を奪うことだけではない…というようなことを言っていたな?ああ、全くもって同感だ。そしてそれはお前達も例外じゃ無いな」
ルーヴェリアがぽつりと、記憶干渉とささやいた。
するとセラフィナの脳裏にはあの暗い、暗い、水底の記憶が過ぎり、あの時感じていた不安や恐怖が津波のように心に襲いかかった。
セラフィナ「…!やだ!やめて!」
ルーヴェリアはセラフィナの記憶に干渉し、幼い頃の記憶しかなかった頃に戻したのだ。
セラフィナ「くらい!こわい…!おかあさん、おかあさん、おかあさん、おかあさん…!!」
ルーヴェリアは呆れた目で泣き叫ぶ姿を見つめた。
なんだ、壊す側のくせにいざ壊されると脆くて話にならない。つまらないな。
二度と帰らない存在でもないくせに。
一方的に追い出されただけのくせに。
蹂躙されて殺し尽くされる恐怖を、絶望を、与えてきた側のくせに。
ふっと頭に血が昇りかけたのを抑えて
ルーヴェリア「どうしたの、お嬢さん」
わざと、優しい声をかけてやる。
きっとセラフィナが求めたであろう、救いの手を声だけで演じてやった。
セラフィナ「おかあさんたちと、はなれさせられて、ひとりぼっちで、こわいの」
ルーヴェリア「じゃあ、私のいうことを聞いてくれたら、一緒に家族を探してあげます」
セラフィナは首を何度も縦に振った。
セラフィナ「ききます!どんなことでもききます!だからおしえてください!おかあさんたちはどこにいますか?つれていってください!」
まだ舌足らずなその声を後に裏切ることにはなるのだが、まあ心は痛まない。
──だって相手は魔族なんだから。
ルーヴェリアは再度彼女の記憶に干渉し、捕縛されて目を覚ました直後に遡行させた。
もちろん、奴の幼い頃の記憶を改竄した部分だけはそのままにして。
セラフィナからすれば何が起きたか分からない。
自分はこの敵を壊しに向かって、敗北し、捕縛された。相手は敵だ。なのに何故かこの声の持ち主の言うことを聞かなければならない気がする。
遠い昔、孤独の海を彷徨っていた時に聞いた優しい声にどこか似ているからだろうか。
ルーヴェリア「何でも言うことを聞くという話だったな」
セラフィナ「…………」
ああ、やはりあの時の声の主だったのか。
ぽろぽろと涙を流しながら力無く頷くしか無いセラフィナの姿に愉悦を覚えながら、ルーヴェリアは再度質問する。
ルーヴェリア「魔王の居城、それから帝国の状況を話せ」
セラフィナは俯きながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
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