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天月 兎

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サフラン色の栄光──不滅より終焉を贈るまで
第二十三話 前編

雷鳴が地を這うように鳴り響く。
紫がかった黒雲が空を覆い、陽光はとっくに届かない。
アールマグ帝国と呼ばれたこの国の城は、かつての栄華など影すらも残っていない。
ひび割れた柱、床、扉、天井に至るまで飛び散らかされた血痕が染みついている。
死者の国と見間違う様相に、生者の影が4つ。
朽ち果てた玉座に腰掛けた魔王、イレディアが口を開く。
イレディア「……ザルヴォが逝ったらしい」
退屈そうに肘掛けに片肘をつき、頬杖をついて放たれた一言は落雷よりも重く鋭い。
しかし、意にも介さずといった体で水祖セラフィナが言葉を返した。
セラフィナ「想定の範囲内でしょうに」
貴女は我々をチェスの駒か何かにしか考えていないのだから、という含みを感じる。
ミュルクス「僕見てたー!」
ぴょんぴょんと、声と共に跳ねながらケタケタと笑う。
ミュルクス「首がね、ぐるん!ってなってたよ!」
お前は何故に加勢しなかったのかと周囲が嘆息をこぼす中、ひとりだけ愉快そうに笑い続けている。
無邪気とは時に恐ろしさを感じさせるが、今正にそれが体現されている。
イレディアの側近、サーシャが壁面に縫い止められた地図を眺め、肩越しに魔王を顧みた。
サーシャ「残るのは、アルゼト、サフラニア、そして……テフヌト族領」
うっそりと笑みをこぼすような琥珀の瞳は、このまま全てを根絶やしにしろと命じるのを待っているかのように煌めいている。
サーシャ「どう動くつもり?」
イレディアは数秒の沈黙の後、その問いに答えた。
イレディア「族長を失ったテフヌト族は脅威にすらならん。七将がいなくなったことで統率を失った魔獣共でも放っておけ。周辺の村々諸共勝手に根絶やしになる」
ゲートさえ開いておけばこちらがわざわざ出向き、手を加えるまでもないと言いたいそうだ。
つまらなそうに琥珀の瞳が地図に戻された。
つい、と指を動かすと焼けこげたようにテフヌト族領の地域にバツの印が刻まれる。
イレディア「ノクス、シルヴェーラ」
魔王の呼び声に応じて、2つの気配が玉座の前に現れた。
シルヴェーラ「お呼びで?」
ノクス「ここに」
無数の蔦を髪のように垂らし、花の花弁を思わせる真紅の唇を歪ませた、おおよそ女性と見て良いだろう風貌の魔物。植物系の魔物の始祖シルヴェーラと、度々戦場に茶々入れをしてきたノクスが跪く。
イレディア「当初の予定から変更する必要はない」
彼女の声に呼応するように雷鳴が轟く。
イレディア「サフラニアは最後に潰す。まずは……アルゼトを蹂躙してこい」
シルヴェーラ「仰せのままに」
ノクス「ふふ、楽しみだね? 僕の死霊たちを見て、彼らはどう反応するのかな」
三日月に歪むノクスの口元を、鋭利な稲光が照らしている。
空を裂く閃光。
かつて帝国と呼ばれたその場所には、もう人の声はない。
ただ、滅びの胎動だけが、確かに息づいていたのだった。

第三騎士団の凱旋からはや3日。
数ヶ月前まで笑顔や希望に溢れていた人々の表情は、今では不安や焦燥で溢れかえっている。
魔族に殺されるくらいなら、そう言って自ら命を絶つ者さえ現れる始末だ。
少しでも希望を与えなければ、内側から国が滅んでしまう。
宰相1「打って出るべきでは…」
宰相2「しかし、他の七将は…」
堂々巡りの議会、ある意味無駄な時間を過ごしていると言えよう。
騎士団長らのために用意された席の一つに座りながら、ルーヴェリアは考えた。
自分なら、帝国領に無理矢理乗り込んで戦うことはできる。呪いのおかげで、魔力が尽きることはあっても命が尽きることはない。
自分が行くべきではないのか、と。
一方で、彼女の隣に座るアドニスには誰の声も聞こえていない。
頭の中を巡るのは、魔族をどのようにして殺すか。心の中を占めるのは、魔族への憎しみや怒り。目を閉じれば、無惨な姿で帰ってきた侍女の姿が浮かんでくる。
夜も眠れておらず疲労困憊だが、そんなことさえどうでもいいと思えるほどには奴らを殺したくて仕方なかった。
クレストはそんなアドニスを気遣うように、度々視線を彼に送るが、気が付かれる様子はない。
宰相1「このままではいずれ我が国まで…同盟を結んだテフヌト族の族長や、ヴィリディス様も行方不明のまま。何もせずただ待てというのですか?」
宰相2「わざわざ死地に飛び込む必要はないと言っているのです。負け戦と分かっていて派兵するなど、人命軽視にも程がありますぞ」
どちらの言い分にも理がある分、どちらの味方にもつくことができない。
国王は心の中で頭を抱え、それを隠すようにぎゅっと拳を握りしめる。
どうするのが正解なのだろう。
何が正しくて、何が間違いになるのか、全くわからない。
そこへ、1人の兵士が飛び込んできた。
兵士「失礼いたします!アルゼト小国より救援要請!現在、植魔5000、食屍鬼2000と交戦中とのことです!」
ガタリ、と音を立ててテオが立ち上がった。
テオ「俺たち第四騎士団で対応します!」
有無を言わさず言い切り、返答も待たぬまま駆け出していった。
アルゼト小国は、サフラニアの第一王女シーフィが嫁いだところでもある。
約束したのだ、何かあればすぐ駆けつけると。
だから誰にも何も言わせない。
テオ(必ず助けるっすよ…!)
アドニスも立ち上がった。
アドニス「第一騎士団も行かせてください」
彼はテオと違い、返答をきちんと待った。
待ったうえで、却下された。
国王「ならぬ」
アドニス「何故ですか!」
国王「もしアルゼト小国の襲撃が陽動だったら、この国の守りが薄くなるからだ」
しかし彼は食い下がる。
アドニス「第二騎士団、第三騎士団が残っているではありませんか!」
国王「アルゼト小国で戦いが繰り広げられている中で、我が国が襲撃されるとすれば、我が国は東、西、南の三方を守らねばならぬのだぞ」
アドニス「しかし!」
王妃「アドニス」
尚も諦めないアドニスを、王妃が静かな声で制止する。
王妃「気持ちはわかります。けれど一度頭を冷やしなさい。個人の感情で冷静さを欠くことは上に立つ者として恥ずべき行為です」
アドニスはくっと歯噛みして腰を下ろした。
王妃は続ける。
王妃「このままでは堂々巡りで埒があきません。騎士団長達に無意味な時間を過ごさせるより、国防に徹していただいた方が益と思われますが?」
是非を問うように国王の方を見る。
彼は一つ頷くと、国内の問題解決を議題にあげ、後は自分達で話をするからと、騎士団長らを解放した。
廊下に出たアドニスは、暗い面持ちで俯いたままルーヴェリアに声をかける。
アドニス「…師匠」
ルーヴェリア「何でしょうか…あと、ルーヴェリアです、殿下」
アドニス「今は呼び方なんてどうでもいい、それより大事な話なんです」
おお、初めて呼び方について反論した、と第三者のクレストが見守る中、アドニスはルーヴェリアに深く頭を下げた。
アドニス「戦死した者達を、時を操る魔術で蘇生してくれませんか…!」
そうきたか。
ルーヴェリアは瞼を閉じて一呼吸数えてから答える。
ルーヴェリア「殿下は、昨今の葬送をご存知ないのですね」
彼女は何も知らないアドニスに懇切丁寧に説明した。
七将ノクスが居る限り、どんなに損壊した遺体でも、彼奴の術で操られてしまうこと。
そうすると被害が甚大になること。
被害が甚大になるとまた遺体が増え、奴等の思う壺になってしまうこと。
だから昨今の葬送は、骨も残さず焼き尽くすことだと。
無論、国内で自害した者も例外はない。
巡回兵や通報を受けて駆けつけた騎士団が遺体を回収し、誰の目にも触れぬ魔術塔で焼き払っている。
きっと彼が望むのは亡くなった侍女の蘇生だろう。
だが、もうその遺体すら無い状態では出来るわけがない。
あったとしても後述の理由で行わないが。
アドニス「じゃ、じゃあせめて、せめて…戦場では…」
ルーヴェリア「殿下、私の魔力量は常人を遥かに上回ってはいますが、無尽蔵ではありません。それに…戦場で散った勇士の蘇生は彼らへの冒涜です」
確かに、蘇生ができれば戦力差は埋められるだろう。だが、それを何度繰り返せば勝てるかは状況次第だ。
それと、死を覚悟して戦場に立つ彼らがその命を散らせた時の思いや死に様を否定するような真似は出来ないししたくもない。
これは彼女が勝手に思っていることだが、それをしてはノクスと変わらないと考えているからでもある。
よって、却下。
アドニス「でも鍛錬では蘇生してくださるじゃないですか…!」
下げていた頭を勢いよくあげて、今にもルーヴェリアに掴みかからん勢いで噛み付く。
対照的に彼女は至って冷静だ。
ルーヴェリア「鍛錬は鍛錬、戦場は戦場です。鍛錬時に戦場と思うよう言っていたのは、鍛錬だからと甘く見てほしくなかったからに過ぎません」
次に来るであろう「でも鍛錬の時、戦場と思って励むように言うではないか」という言葉を予測して先に返事をしておき、彼女は歩き出す。
ルーヴェリア「防衛態勢を整えますよ」
離れていく背中に、今はついていけない。
クレストがそっと、アドニスの背に手を添えた。
クレスト「我々も行きましょう」
今はきっと、何を言ってもアドニスの心には響かないだろうと考え、あえて慰めの言葉を飲み込み歩き出すよう促す。
アドニスは俯き、唇を噛み締めて促されるままに足を進めることしか出来なかった。
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ひぃく

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完凸したかった…
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フィロ

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次の仕事決まらないから会社辞められないって思って働きつつ転職活動してたけど必須でエージェント相談はすべき
23卒、24卒の第二新卒転職で固定のエージェントをメインで利用してたけど担当さんがベテランで転職への不安も加味して相性や希望に沿って仕事探してくれて乗り換え転職できました
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野狐

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おはようございます
物音で叩き起こされました←

とりあえず、昨日の作業の続き頑張ります;
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とあち

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激重キャリーケースを持って岡山出張に行ってまいります…暑いです
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たこま

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QSC良すぎ〜〜!
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A・キミ

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疲れて気力を失っている間に刀ミュ10周年ライブの1日目の配信終わってて涙目
せっかく買ったのにあんまり観れなかったなぁ…
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みっち

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一見すると普通に見えるヤンデレに気づいた時には外堀埋められてて逃げられなくなってから愛の告白されるの、好きよ。
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ひぃく

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1凸しかしてない……
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🍭ろる

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でもほんと私はデミぜんぶ見てる狂ったオタクだから、こんなのが見たいけどありますか〜とかこういう感じで見たいんだけど〜とか言われたらなんでも紹介できますので…(?)(ソムリエ?)
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かじ。

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新人過去1優秀で助かる。
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