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天月 兎

天月 兎

サフラン色の栄光──不滅より終焉を贈るまで
第十一話 後編

いつも見ている天井を呆然と眺める。
ひとまず、考えを整理しよう。
あれはただの夢だ。若干現実味が感じられたが、恐らく男から言われたことは然程気にしなくて良いかもしれない。
だが、確かめなくてはならないことがある。
ルーヴェリアのことだ。
過去の戦いの話は度々聞かされてはいたが、夢の中で感じた疑問を晴らさなくてはならない。
旧知の仲であるだろうクレストに聞くか、或いは…。
アドニス「戦線記録…」
サフラニアには多くの戦いの歴史がある。
戦術書にはどのような敵が、どのような動きをするか、どんな陣形で臨んできたかなどが記されている。
が、何故かいくつかの魔物に対して討伐記録が記載されていないものがあるのだ。
いつ、誰が、どのようにして倒したのか。
もしもルーヴェリアが本当に自分が生まれる前の戦場に立っていたのだとしたら、戦術書に彼女の名前がないのはおかしいことだ。
城の中にある本は勉強のためにほとんど読み尽くした。なのに彼女の名前はどこにも記されていなかった。
だとしたら彼女はどこで、何と戦っていたのか?確かめなければ。
本人に聞いても良いのだが、国が隠すほどのことを簡単に答えるとは思えない。
なら、自分で探すしかないだろう。
国が隠すほどの大きなことならば、それが記されているのはやはり。
アドニス「禁書しかないよね…」
今日、やらなければならないことが決まった。
帝国との戦いがあるせいでルーヴェリアが不在のことも多いので、鍛錬の時間は少なくなっている。そのおかげと言ってはなんだが、自分が自由に使える時間も増えたので図書室に行くことは出来るだろう。
問題は、禁書の保管庫前にいる見張りになんと言って誤魔化すかだ。
流石に、国王である父から取ってこいと言われたなんて安直すぎるにも程がある。
というか、国王でさえ簡単に閲覧できるような代物ではないのだ。
空間転移の魔術が使えたらいいのに、なんて生まれて初めて思ったかもしれない。
アドニス「はあ……あれしかないか」
誰にでもなく呟いて、着替えをして、朝食をとって、一旦部屋に戻って、作戦決行だ。
一般兵の宿舎に立ち寄り、鎧を着て、顔も見えないように兜も被った。
そして見張りに声をかける。
アドニス「交代の時間だ」
見張り「…もうそんな時間か、早いな。じゃあ後は頼んだ」
なんて。
見張り「言うわけないでしょう王子殿下」
何故バレた。
アドニスは兜のバイザーを上げて困った顔を覗かせた。
アドニス「なんで分かったの?」
見張り「背丈とお髪ですよ。長い銀髪を束ねている一般兵士は居ませんから。あとお声も」
流石に無理があったようだ。
どうしたものかと考えていると、見張りの方から声をかけてきた。
見張り「禁書保管庫に何かご用ですか?わざわざ一般兵士のふりをして来たということは、陛下からお話があったわけでもないでしょう?」
アドニス「そう、だね……うん。実は城内の戦術書を全て読んだんだけどね、魔族との戦いについて記載されていないことが多くて。なんだか魔術棟の方も騒めいているし、僕は戦場に立つことも多いから、いざという時のために勉強しておきたかったんだ」
一応、嘘は言っていない。ルーヴェリアのことが気になるからここまで来たのではあるが、魔族についても知っておきたいというのもある。
それに、多分彼女の名前は出さないほうがいいだろう。彼女は何故か恐れられているから。
見張り「陛下にはご相談なされないのですか?」
アドニス「一度話をしたことはあるんだけど、駄目だって言われてしまったんだ」
これも本当だ。1年前の話ではあるが、全ての戦術書、歴史書を読み終えたから禁書も読みたいと言ったが断られたのである。
見張り「自分としては、中に入れて差し上げたいのですが……もし、このことが他に知れたら……」
見張りの言うことはよく分かる。
首が飛ぶことはないと思うが、それなりに罰が与えられてしまうだろう。
アドニス「じゃあ、その時は僕が脅したことにしよう。中に入れなきゃ濡れ衣を着せて死罪にしてやると言われた、みたいな?」
見張り「……それ、誰が信じると思いますか…?ご自身の性格と人望を見直された方がよろしいですよ……」
アドニス「ははは…そうだよね…」
非常に困った。
だが何としても知りたいのだ。中に入りたい。
そこでアドニスは、その場に跪くことにした。
アドニス「お願い!本当に全部僕のせいにして構わないから!」
見張り「何をしてるんですか!王族である貴方が簡単にそんなことしたら駄目ですよ!立ち上がってください!」
即座に見張りが慌ててアドニスを無理やり立ち上がらせる。
見張り「はあ……もう、わかりました。陛下にも黙っておきます。自分は何も見ていないことにしておきます。そのかわり、出てくる時はノックでもして知らせてください。人がいないか見ておきますから…」
根負けした見張りはそう言って禁書保管庫の扉を開いた。
アドニスは他の人間が来てしまわないうちに軽く礼を言ってさっさと中に入る。
入室する者がほとんどいないためか、部屋の中は埃がひどく、かびたような臭いが充満していた。これで本は傷んでないのだから、保存魔術がいかに素晴らしいか考えさせられる。
アドニス「えっと…確か魔族との戦いが激化していたのは大体50年くらい前だよね…」
埃で咽せてしまわないように口元を袖で覆いながら、年代別に分けられた本棚のうち一冊を手に取る。
はらりと捲った最初の頁にはこう書かれていた。
"天候、雷雨。
モリズ村北部にてゲート発生、魔族より侵攻有り。獣魔1200、死霊5000、計6200。
獣魔は大型が200、その他小型で構成。前衛に配置。死霊は後衛に配置。500で小隊に分けられており、内3部隊は騎馬兵となっていた。
村民はヘルベ湖を経由しエストア方面へ避難。
サフラニアより250派兵、カルシャ村にて駐留していた50の兵士と併せ300で迎撃。
魔族は全滅。サフラニア残存兵力3。
部隊長名:ルーヴェリア・シュヴィ・ヴィルヘルム"
次の頁も、その次の頁にも、彼女の名前がある。
捲っても捲っても、彼女の名前が。
これは、50年前の本だ。
一体彼女に何があったのだろう。
そして何故、魔族の数に対してこんなにも兵士が少ないのだろう。
アドニスは本を棚に戻し、更に過去に遡ってみることにした。
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