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天月 兎

天月 兎

サフラン色の栄光──不滅より終焉を贈るまで
第八話 後編

そうして暫く歩き、そろそろ城壁が見えるくらいのところまで来た時。
走っていた子供が後ろからとん、とぶつかってきた。
あうっ、と言って子供はそのまま前のめりに転ぶ。
ルーヴェリア「大丈夫ですか?」
屈んで手を伸ばすと、子供はわんわん泣き出してしまった。
どうやら膝を擦りむいたらしく、流血している。
子供「わあああん!いたいよう!」
仕方ない、このまま放置するのも心が痛むというものだ。
ルーヴェリアは屈みながら「大丈夫、すぐ良くなりますよ」と言って子供の膝に手を当て、簡単な治癒の魔術を使ってやった。
みるみるうちに傷は塞がり、元の綺麗な状態になる。
子供「あれ…いたくない」
ルーヴェリア「ほら、すぐに良くなったでしょう?」
子供は一瞬泣き止んだものの、今度はルーヴェリアに抱きついて泣いてしまった。
ルーヴェリア(どうして泣いているのでしょう…私、なにか余計なことをしてしまったのでしょうか…)
どうすれば良いのか分からず、困惑しながらも子供の背を撫でる。
ルーヴェリア「一体どうしたのですか?何か困っているの?私に出来ることはありますか?」
そう言うと、子供はしゃくりあげながら事情を話してくれた。
どうやら母親とはぐれてしまったらしく、ずっと探し回っているが見つからないとのこと。
それなら、自分にも出来ることがある。
ルーヴェリア「では、一緒に探しましょう。手伝ってあげますから、もう泣かないで」
カバンからハンカチを取り出して子供の顔を拭ってやる。
まだ若干涙がにじんでいるが、安心したのか泣き止んだようだ。
ひとまず、子供が母親を探しやすいよう抱き上げて周囲を探索してみた。
ルーヴェリアの身長168cmと、普通の女性よりは高いので視点もそれなりに高くなる。
そのおかげか、案外早く母親を見つけることができた。
母親の方も大分必死に探していたようで、汗だくになっていた。
何かお礼をさせてくれと言われたが、丁重に断りその場を後にする。
帰る道中で、街の外れに立つ石碑を見かけた。
石碑には"誉高く勇敢な魂達に安らぎを"と刻まれている。
これは、ルーヴェリアが経験した地獄のような戦争で命を落とした者達のために建てられた慰霊碑だ。
慰霊碑の下部には小さな祭壇が置かれており、色とりどりの花が添えられている。
周辺には数名の男女が慰霊碑に向かって祈りを捧げていた。
ルーヴェリアは慰霊碑の前に立ち、胸の前で手を組んでそっと目を閉じた。
兵士のみならず、街の住民にまで被害が及んだあの戦争は、本当に…本当に多くの犠牲者を出した。
彼女の家族も、友人も、部下も、弟子も、皆、皆目の前で命を落としていった。
脳裏に過ぎる死の数々が、胸中の奥底に穿たれた塞がりかけの傷を開いていく。
あれはこの国の、いや、この世界の血塗られた黒い歴史であり、繰り返してはならないものだ。それであるのに、帝国はまたこの国に向けて害を及ぼそうと画策している。
どうすれば止められるのだろう。
何故人は争うことを止めないのだろう。
ルーヴェリア(どうか、貴方達が心安らかでいられる世界にするためにも…道を示してください)
今度こそ守りたいから。
平和のために散っていった仲間達に報いるためにも、自分が折れてはいけないから。
祈りを捧げ終え、そっと息を吐き出して再び歩き出した。


そして城に帰ってきた。
のだが……。
衛兵「そこの女、止まれ」
ルーヴェリア「……はい?」
衛兵「お前、この城の関係者では無いだろう。無関係な人間は立ち入り禁止だ、今すぐ帰れ」
……………。
ルーヴェリアは無言でカバンをごそごそと漁る。
衛兵「何をしている、さっさと帰……」
そして目の前に騎士の印章を突き出した。
ルーヴェリア「第一騎士団団長、ルーヴェリア・シュヴィ・ヴィルヘルムです」
衛兵の顔は一瞬で真っ青になった。
考えている事はだいたいわかる。
なんてことだろう、あの怪物を怒らせてしまった。殺される……!だろうな。
衛兵「し、し、失礼しました!!お通りください!!」
ルーヴェリア「お気になさらず」
一言だけ返すと、印章をカバンにしまいながら自室へと向かっていった。
別に気にしてはいない。
彼はただ仕事をしただけだ、と考えたから特に何も思わなかった。
のだが、ルーヴェリアに悪い噂が付きまとっているせいか、衛兵からすれば冷めた表情で冷たい声で返答されたように感じたのだろう。
同僚から心配されるくらい精神を病んでしまった彼は、暫く自宅療養することになる。
翌日には騎士団の耳にも入り、「たった一言で兵士に呪いをかけた」やら、「睨んだだけで心を蝕む恐ろしい化け物」やら散々な噂が出回った。
そんな噂を耳にしたクレストは、ルーヴェリアの表情筋を柔らかくしよう計画を宰相や国王達と真剣に考える。
果たして、無事に誤解を招くお堅い表情を和らげることが出来るのか……?
それはまだ先の話である。
ルーヴェリアが部屋に戻ると、机の上に見慣れない小さな箱が置いてあることに気がついた。
添えられた手紙を開いてみる。
「シエラ達から何があったのかは聞きました。助けてくれてありがとうございます。これはほんの気持ちです、受け取ってください。」
どうやらアドニスからのようだ。
ルーヴェリア(無事お目覚めになられたのですね、良かった…)
箱を開くと、中にはブローチが入っていた。魔装具などではなく、単なる装飾品のようだ。
銀色の飾り枠の真ん中に、楕円形に整えられた空色の宝石が嵌め込まれている。
ルーヴェリア(これなら、普段着に取り付けても問題なさそうですね)
自分は役目を果たしただけだからなにも気にする必要はないのに、と思った。
だが、折角もらったものを使わないのは勿体ないし、豪奢すぎないデザインが少し気に入ったのもあり、きちんと使うことにする。
きっと身につけている姿を見たら、アドニスも喜んでくれるだろう。
ルーヴェリアはそっと箱を机の上に置き直し、外着から普段着に着替える。
その胸元にブローチを付け、鏡で確認してみたが、さり気ない存在感がとても良い。
その後ルーヴェリアは書庫から魔道具についての本を片っ端から持ってきて部屋で読み漁り、夕食を摂って、久方振りにぐっすりと眠ったのだった。
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