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詩音

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「波間に揺れる恋」①

 夏の太陽がじりじりと照りつける午後、千鶴は砂浜に座り、波打ち際を眺めていた。
潮風が肌を撫で、遠くで子どもたちの笑い声が響く。

「千鶴、またぼーっとしてるのか?」

 声をかけたのは千秋だった。
軽く日焼けした肌、ゆるく流した髪、そして爽やかな笑顔。
女子の間で人気のチャラ男――
それが千秋だ。

「べつに。ただ、少し海を眺めていただけ」

「ふーん。でも危ないぞ? お前、泳ぎ下手だろ」

「うるさいな、余計なお世話!」

 千鶴はぷいっと横を向いた。
千秋とは幼馴染で、今では義理の兄妹という関係になった。
千鶴の母親と千秋の父親が再婚して、同じ家で暮らし始めたのは半年前のことだ。

 初めはぎこちなかったものの、すぐに昔のように話せるようになった。
千秋は今も変わらず千鶴をからかってくるが、義理の兄として優しく接してくれることも増えた。

「ったく、海に来たのに泳がねぇの?」

「……そのうちね」

 千鶴は小さく息を吐いた。

 実は去年、海で溺れたことがある。
そのとき助けてくれたのは、新しい父親だった。
鍛えられた腕に抱かれ、冷たい水の中から引き上げられたとき、千鶴は心臓が跳ね上がるほどにドキドキした。

(……あのときから、私は父さんのことが気になっている)

 もちろん、本当の父親ではない。でも、母親の再婚相手に恋心を抱くなんて――
いけないことだ。
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